デザインのひきだし50に掲載されました!
2023.10.06前回のオンエアから2カ月半ほど時間が経ってしまいました。その間、西谷さんは腕立て伏せを毎週2000回行うことを目標にトレーニングされていたようです。久しぶりのラジオでは、印刷立会いについて語りました。
最終的な色味を決定するために、デザイナーさんやクライアントさんが印刷工場を訪れ、印刷を一緒に行うことを「立会い」「印刷立会い」といいます。特色印刷の場合にはインキの配合を最終決定し、プロセス印刷ならCMYK各色のインキツボを調整して色味を決めます。現在では色校正用のプリンタと本番用のオフセット印刷機の色調を管理し、OKが出た色校正に対して基準値以内で印刷ができていることで正解として、立会いをしないのが主流になりつつあります。でも、レシピ通りに料理をしたからと言って味見をしなくていいとはならないように、数値的に正しいからと言って美しいとは限らない。サンコーではそう考え立会いを歓迎しています。
大きな印刷工場だと、立会い用のお部屋があったりします。その場合には色出しが終わった原稿を持ってきてくれて、それを確認して修正を指示、現場で印刷して再度原稿を持ってきてもらう。というやり取りをします。サンコーにはそんなお部屋が無いので工場に一緒に入っていただき、印刷機の隣にある「色見台」の照明の下で、一緒に刷り上がりを確認してもらいます。ここで出来ることは、料理に例えるならば最後の塩一つまみの調整。データをいじらなければ直せないものは色校正で直しておく必要があります。
大型の印刷機だと1台3億円近くします。それを10年で償却するとしたら、1年あたり3000万円。月間250万円。1日あたり10万円。1日8時間稼働として1時間あたり12,500円が印刷機の償却費だけで発生します。さらに人件費や家賃などの固定費があり、工場は時間あたりの生産性を最大化することが至上命題です。立ち合いでは、良い印刷物を作るために印刷機を止めて調整をします。印刷工場が背負う生産性という絶対命題を理解することが良い立会いのスタートラインだと言えまます。
立会いをして頂くために、工場はその仕事の紙を積み、版をセットし、色出しをして待っています。そして立会いが終わったら次の仕事が待っていて、それらすべての仕事に後工程の予定が組まれています。集合時刻に遅れると、工場が長い時間止まってしまうだけでなく、その後の仕事の予定まで狂ってしまいます。遅刻厳禁!
薄いインキを濃くするためには色を混ぜていきますが、濃くなりすぎてしまったインキを薄くするには、インキを抜いて機械を洗浄し、新たにインキを練り直し、色出しをして・・・。と大変な時間がかかります。そのため、目指す色に慎重に近づけていかなければいけないという事情を理解してもらえると、印刷職人が泣いて喜びます。
印刷立会いで調整できるのは、基本的にはインキの盛りだけです。全体的な色味を調整することはできますが、特定の場所だけの修正はできません。特定の人の顔部分のシャドウを上げる、といった修正はデータで行う必要があるため、色校正の段階で指示をする必要があります。
コート紙に蛍光色も含めた6色のインクジェットプリンタで出力した見本に対して、印刷はCMYKで非塗工紙に行う。そんなケースがあります。理想とする出力見本があることで、印刷会社はその理想に少しでも近づけようとしますが、このようなケースでは原理的に同じ色には仕上がりません。出力見本と同じになっているかという目線に縛られ過ぎず、目の前の刷り上がりを見てデザインに込めた意図が伝わる仕上がりになっているかをフラットに判断することも大切です。
例えば赤味が強い仕上がりになった時には、Mを下げる方法と、CYKを上げる方法とがあります。そこで「赤味が強すぎるのが気になる」と言えば、職人は全体のバランスを見て、どちらの選択肢が望ましいか提案してくれるでしょう。でも知ったかぶって「赤下げて」と指示をしてしまう方が時々いらっしゃいます。そうなると職人は言われた通りMを減らし、結果として全体的に色の浅い印刷物になってしまうかもしれません。印刷職人はインキの盛りだけでなく、機械のスピード、水の量、インキの硬さ、印圧、様々な要素をコントロールして、バランスの良い仕上がりを目指します。知ったかぶるよりも彼らの技術をうまく使うのも立会いのコツです。
カラー写真を全て蛍光色に置き換えたり、4色機で一気に12色印刷してみたり・・・。印刷職人ですら予測出来ない事を実験しています。
毎週火曜日の夜8時から。紙のこと、デザインのこと、印刷のことについて、 ゆるゆると語る30分。
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