デザインのひきだし50に掲載されました!
2023.10.06印刷物の世界では、その内容やデザインはもちろん、紙や素材もメッセージを伝えるための重要な要素のひとつ。手に取った瞬間の質感や色味、重さなど、それらが一体となって私たちに語りかけてきます。
今回ご紹介するのは、そんな紙の魅力を最大限に引き出した「見本帳」を完成させたプロジェクトです。きっかけは、当社と長年お付き合いのある紙卸商社・平和紙業様からの「エコラシャという紙の見本帳をつくりたい」というご相談でした。
〈エコラシャ〉は、環境配慮型の特性や幅広いバリエーションで注目されているファンシーペーパー。ただ、まだまだ認知度が高くないため、その魅力を多方面に届けるための特別な見本帳をつくることが、本プロジェクトの目的でした。
エコラシャは厚さや色のバリエーションが豊富で、本の表紙や扉など、多くの場面で使用されている紙です。さらに、環境に配慮されたFSC森林認証紙のため、サステナブルな社会への貢献が重要視されている昨今はエコロジーペーパーとしても注目を集めています。
一方で課題となっていたのは、実際に使ってみないと魅力が伝わりづらいということ。そのため、単なる見本帳ではなく、紙そのものが持つ可能性を伝えるツールであることが必須でした。そういった背景や平和紙業様のご要望もふまえて、大きく3つのポイントを意識しました。
平和紙業様の依頼でデザインを担当したのは、デザイン事務所〈コズフィッシュ〉ご出身の藤井瑶さん。小説、漫画、絵本など、幅広いジャンルのデザインで活躍されています。藤井瑶さんのアイデアによって、エコラシャの見本帳は単なるカタログではなく、「紙の可能性を体感できる」冊子へと昇華されました。
特にこだわった点は、下記の通りです。
高品質な美しい仕上がりを見せるために、再現が難しいとされている紫色をあえてCMYK印刷で表現。背景には艶消しシルバー箔で金網越しの花を描き、紙の質感と高級感が直感的に伝わる世界観になっています。
前半部分では、カラーイラストや特色インクを用いた線画をデザイン。さらに、カラーチャートを通じて紙の印刷適正を示します。
後半部分では、全38色・58規格の紙見本を網羅した構成に。クライアントに向けて、具体的な選択肢を提案します。
このプランを実現するためには、高度な工夫が必要でした。
まずは、紙の厚さと特殊な製本について。
通常の見本帳の表紙は、しっかりとした印象を与えるために厚手の紙が使用されます。ただし、今回は高級感と軽やかさを両立させるために、あえて薄い紙を選択。薄くてもページをピタッと開いたまま保つことができるPUR製本という手法を用いました。
次に、段階を分けた印刷の工程です。
前半部分のカラー印刷では、紙の候補を10種類に絞って1台ですべての仕上がりを確認できるようにしました。本機での色校正用として全バリエーションが1台に入るように集約し、印刷には3日間を費やしました。
ベースとなる白インクを印刷。
カラーイラストやデザイン要素を重ねる。
金と銀のインクで最終的な仕上げ。
当初は、白紙でテスト印刷を行い、その結果をもとに紙を差し替える想定でしたが、紙ごとにインクの乗り方に大きな差が出ることが判明。そのため、1枚ずつ微調整を行う必要があり、予想以上に工程が複雑化しました。
そうしてテスト印刷をした結果、10種類の候補の中から最終的に6種類の紙に絞り込み、印刷見本として見本帳に集録しました。
今回のプロジェクトの一番大きな特徴は、印刷現場の全工程に各分野の専門家が集結して立ち会ったことです。長年にわたって様々な印刷を担当してきた当社ですが、このような事例は初めてでした。
紙卸商社の平和紙業様、製紙メーカーの王子エフテックス様、デザイナーの藤井さん、イラストレーターの安藤さん、そして印刷会社のサンコー。
全員が印刷現場に立ち会い、通常ではあまり考えられない印刷機の設定やインクの調整をするなど、その場で意見やアイデアを出し合いながら試行錯誤することで、課題を一つひとつクリアしていきました。
様々な難題を解決しながら、ようやく完成となった世界にひとつだけの「エコラシャ見本帳」。それは、単なるサンプルの枠を超え、紙そのものが持つ魅力を語ってくれる特別な一冊となりました。
紫色とシルバー箔を用いた洗練された表紙デザイン。ページをめくれば、多様なカラーサンプルと特色インクでエコラシャの可能性を体感できるうえに、紙見本まで一覧できる仕様。この見本帳を手に取ることで、エコラシャの魅力を直感的に感じられる納得の仕上がりとなりました。
今回のプロジェクトは、ただ見本帳をつくるということだけではなく、紙・デザイン・印刷・製本の可能性を広げる大きなチャレンジとなり、多くの新しい発見をもたらしてくれました。
通常では不可能に思えるアイデアでも、各分野のプロフェッショナルが集うことで、きっとできることはたくさんあるはずです。
もちろん、私たちサンコーも皆様のアイデアの実現に向けて全力でご提案させていただきますので、どんな些細なことでも一度ご相談いただければと思います。
また、今回完成したエコラシャの見本帳は、ペーパーボイス東京で実際にご覧いただけます。エコラシャの魅力に触れて新しいインスピレーションを得たい方は、ぜひお立ち寄りください。
カラー写真を全て蛍光色に置き換えたり、4色機で一気に12色印刷してみたり・・・。印刷職人ですら予測出来ない事を実験しています。
毎週火曜日の夜8時から。紙のこと、デザインのこと、印刷のことについて、 ゆるゆると語る30分。
03-5534-5731
(お気軽にお問い合わせください|平日 10:00~18:00)