デザインのひきだし50に掲載されました!
2023.10.06デザイナーさんにはおなじみのプロポーザルについてディスカッションしました。
行政でのデザイン発注では、プロポーザルと呼ばれる選考が実施されます。仕様書が渡され、その内容に基づいて、デザインや企画の提案を行います。例えばある施設の定期刊行物なら、施設の目的はこう。利用者にはこんなことを伝え、こんな印象を持ってもらいたい。という内容が示され、それをもとに冊子のコンセプトを考え、どんな記事が必要なのかを考え、それをデザイン案に盛り込み書面とプレゼンテーションによる審査を受ける。というのが一般的です。
デザインや企画の要素が無い印刷物の場合には、仕様書に紙の種類や印刷方式や納期が明示され、それに基づいて価格を提示し一番価格が安い会社が受注する。という入札方式が一般的です。それに対して、企画やデザインは価格だけでは選べない。でも公平公正な審査をするために、複数の関係者による審査委員会が採点基準を決め、それに基づいて決定するというプロポーザルが生まれたのだと言えます。
でも、このプロポーザルは誰も幸せにしないのではないか。そう考えます。プロポーザルの問題点は、飲食店に例えるとわかりやすいと思います。
公正なお金の使い方を実現するという一方で、料理人の側からしたら各レストランの料理を食べて、一番おいしかったところだけお金を払うとても横暴なお客さんという見方もできます。料理店にとってはメニューを考え試作する段階でとても大きな労力とコストが発生しています。そして、その無駄になったコストが他の案件に乗っかることで結果的に高くついてしまうのではないか。そう思います。
レストランでワインを選ぶシーンでは、最初から自分の飲みたい銘柄が決まっていることは考えにくく、ソムリエとの対話を通じて選ぶことが普通です。デザインも同じように対話を通じて作られるものだと思いますが、仕様書の中で伝えられることは「赤ワインが飲みたい」とか「地元の魚を使った料理が食べたい」というレベルに留まります。それを聞いたソムリエが一方的にメニューを提案するというやり取りで、本当に食べたいものが食べられるだろうか。と感じてしまいます。
プロポーザルの審査員はデザインや企画の専門家ではなく、その業務を担当する部署の関係者が大半です。デザイナーなどの外部有識者が入るケースもありますが、多くの場合はデザインを判断できる人が審査員とは限りません。例えるならば、お年寄り向けの料理のコンテストなのに、審査員の大半が肉が大好きな大学生のラガーマンという状態になっているのではないでしょうか。これでユーザーのためになる選択ができるのでしょうか?
これまた飲食店に例えて考えるとわかりやすいと考えます。
夕食のメニューを選ぶとき、私たちはまずお店を選びます。今日は時間が無いしお腹が減ってるから吉野家。今日は特別な人とのデートだから夜景のステキなレストラン。大切なお客様との会食だからこの料亭とどのお店を選ぶかを決め、そこで予算や要望を伝え料理人と一緒になってステキな食事を創り上げていきます。デザインもまずは誰と作り上げるかから考えるのが理想だと思います。
台湾では各省庁が相乗りでデザインセンターを立ち上げ、そこで案件ごとにデザイナーを選定。デザイナーとの対話を通じて案件を進める。という手法を取っているそうです。日本でも参考にできる事例だと思います。
台湾の事例は第61回紙と印刷とラジオ『李章聖さんのCDジャケットから台湾のデザイン事情を読み解く視点 』をお聞きください。
台湾では政策的にデザインに力を入れましたが、日本ではフリーランスでデザインをしている人たちがいるということ自体が、政治家や官僚から見えていないように思います。だから助成金でフリーランスとフリーターが混同されたり、公平で公正なプロポーザルという選定方法が、ただ食いになっていることに気づかない。そう考えています。
今日は珍しくまじめな内容になりましたが、この考え方が正解だとは思っていません。ただ、マクロ経済で大きなシェアを占める行政セクターのデザインの質が良くなれば、世の中がもっと良くなる。そのための議論の呼び水になったら嬉しいです。
カラー写真を全て蛍光色に置き換えたり、4色機で一気に12色印刷してみたり・・・。印刷職人ですら予測出来ない事を実験しています。
毎週火曜日の夜8時から。紙のこと、デザインのこと、印刷のことについて、 ゆるゆると語る30分。
03-5608-5741
(お気軽にお問い合わせください|平日 10:00~18:00)