同期は今、スクラップ工場で解体されるのを待っていた。私は缶コーヒーのプルタブを引いて、同期の筐体の上に置く。指先が同期に触れた瞬間、その冷たさに素早く手を引っ込めた。本当にモノになってしまった。缶コーヒーから流れた先に、先頭が見えないほど長く続く列がある。有人時代のコンビニレジや銀行のATM、電子辞書、工場の組み立て機械、コールセンターの電話機。役目を終えて沈黙する道具たちの列に、ぽつぽつと印刷機の姿があった。
私たちの会社は、印刷一筋の、真面目な会社だ。聞けば、他にもインキや刷版に変身した社員がいたらしい。この列の中に、かつて仕事を共にした仲間も、取引先の担当者もいるのかもしれない。
同期の筐体の奥から、こつんとインキローラーが動く音が聞こえた。
「まだ印刷する気なのかよ」
ハンカチで同期にうっすらと積もった砂埃を拭ってやっても、やはり同期は、うんともすんとも言わない。
「印刷で食べていくのは、正直もう厳しいかもしれない。今さらだけど、お前の仕事ぶりはかっこよかったよ」
その時、息をはくように、ふっと一枚の紙が同期から滑り出してきた。

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