同期は、オフセット印刷機になった。
人が変身してしまう奇病が確認されたのは2024年のこと。ロックダウンもソーシャルディスタンスもだめだった。だめだったのに、前のパンデミックほど誰も何も言わない。その理由はなんとなくわかっていた。変身病は、役割を失って無気力になった働き手のみに発病するらしいから。不要不急の仕事をしている人間が変身しても、誰も見向きもしないのだ。
「よっぽど印刷が好きだったんだね」
私は、トイレでオフセット印刷機に変身した同期を見た。大型印刷機に変身した彼は、発病した拍子に個室三つを串刺しにしていた。

「これからが印刷の時代だ」というのが近頃の同期の口癖だった。斜陽なのはオフセット印刷ばかりで、シルクスクリーンなんかの特殊印刷はまだまだ忙しい。だから消えていくのは印刷それ自体ではない、私たちのような印刷会社だけだよ、と、同僚は皮肉たっぷりに目を細める。その表情にはまだ余裕があった。根っからの印刷好きだからこそ、同期はまだまだ印刷に希望を感じていたはずなのに、なぜ。

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