デザインのひきだし50に掲載されました!
2023.10.06文字や写真の情報を伝えるメディアとしてwebメディアが新たに登場してから、印刷物の位置づけはそのように変わっていきました。でも、印刷技術の発展と、印刷物に関わる多くの職人達の匠の技が組み合わされば、この常識に風穴を開けることが出来るのでは?
そんな想いからweb時代に紙メディアでも即時性を追求する『LivePrintig』 の取り組みがスタートしました。
LivePrintingの場として選んだのは、8月27日に開催された、すみゆめ踊り行列。9月から始まる「隅田川森羅万象 墨に夢」(通称・・・すみゆめ)の開幕をお祝いするキックオフイベントです。
『北斎が描いた目出度くも美しい踊行列図を、現代の隅田川に蘇らせるべく、この地に息づく森羅万象の営みを体験・体感しながら、すみだにかつてあった、もしくは現在起きている多様な活動が体験できる「フィールドワーク」に続き、夕方からは眺めの良い隅田川テラスで「オープニングパーティ」』という2部構成のイベントです。このイベントで、13時頃から区内8か所で開催されるフィールドワークの様子と、16時から隅田川テラスで開催されるオープニングパーティの最初の記念撮影を取り込んだ、瓦版を作成し、300部印刷して19時のイベント終了までに届けます。
通常の印刷工程では、デザインやレイアウトを決め、そこに文字や写真を貼り付け、印刷して、という流れで最低でも入稿から仕上がりまで1~2日はかかります。即時性が求められる新聞でも、夕刊の入稿締め切りは午前11時~午後1時頃と言われています。
それを考えると、結構無謀な挑戦かもしれません。ひょっとしたら、失敗するかも。でも、これからの時代の「紙の価値」について考えていく一環として取り組むことを決めました。
ここからは、当日の様子を時系列で追ってご紹介していきたいと思います。
13:30 スタッフ到着
サンコーのデザイナーで、今回のLivePrintimgを担当する大矢と、有薗が出勤。この先の戦いの為の準備を整えます。この頃、墨田区内の各地で、フィールドワークがスタートします。各フィールドワークの参加者の方に、記事の執筆を協力してもらいます。
15:30 校正の井上尚子さん到着
各フィールドワークの参加者の方から送られてくる原稿は、誤植があったり、表現が統一されていなかったり、文字数がバラバラだったりで、そのままでは印刷物としては使えません。井上さんには文字校正と呼ばれる修正作業を担当していただきます。
このころから、各フィールドワークの参加者の方々から、現地でのレポートがメールで届き始めます。テキストと写真が入ったレポートをデザイナーとライターで目を通し、どの写真を使うかなどを確認して作業開始。
16:00 記念撮影
各地でのフィールドワーク参加者が隅田川テラスに集まり、オープニングパーティの開始です。まずは皆さんでの記念撮影。撮影は、写真家の馬杉真理子さん。
撮影が終わったら、そのデータをすぐに現像と画像修正に掛けます。印刷用のデータは、JPEGではなくRAWという形式で撮影して、専用ソフトで現像する必要があります。さらに、集合写真の場合、その人の顔の向きなどによって顔に影が出てしまうことがあります。影がかかって暗くなってしまった人の顔に、明るく補正を掛けていきます。
ここでトラブル発生。パソコンの調子が…。データが読み込み中のまま動きません。
熱による暴走の可能性が高いので、パソコンを冷やしながら作業をします。
そして、やっと補正が終わったデータを受け取り、サンコーへ急行!
18:00 印刷用データの完成のはずが・・・
フィールドワークのレポート、記念写真などを取り込んだ印刷用データがいよいよ完成。と言いたいところなのですが、レポートが1本だけ届きません。仕方ないので、7件のレポートだけ出力して、内容の最終チェックをしながら最後の1本を待ちます。。
今回使ったのは、サンコーにあるオンデマンド印刷機『FUJI XEROX DC5656P』。小ロットでの印刷をメインに使っている機械です。今回のA3用紙の300部だと、オフセット印刷とコストの面ではトントンかもしれません。ただ、オフセット印刷の場合、版を出力し、色出しをして、印刷して。という工程を踏まなければいけないため、最低でも3名のオペレーターが必要になります。さらには表面を出力して、半日程度乾かしてから裏面を印刷するため、今回のスケジュールではとても間に合いません。
18:30 やっと印刷スタート
最後の原稿がやっと到着。急いでデータを流し込む作業をして、印刷をスタートしたのが18:30頃。ここから、表裏300枚を印刷するのに35分ほどかかります。となると、印刷終了は19:05頃。19:00の納品には間に合いません。ステージまでの移動時間の15分を加味して、取り急ぎ100枚だけ刷り上がった段階で、第一陣は会場へ。
印刷が出始めるまでの数十秒が何時間にも感じます。
19:00 会場での配布
第一陣がパーティ会場に到着。ライブステージではアンコールを演奏していて、すごく盛り上がっています。
この曲が終わったところで、司会の学芸人の葛飾ふとめ・ぎょろめのお二人に呼ばれてステージに。まずは最初の100枚を配布しました。そのうち第2陣が到着。トータル300枚が配布されました。
今回の取り組みは、想像していたものの、大変でした。
紙だからこそ、修正ができないので、間違えた情報を届けるわけにはいかない。紙だからこそ、レイアウトに収まる文字数でなければいけない。紙だからこそ、写真のクオリティも妥協できない。紙だからこそ、印刷の表裏の見当精度も維持しなきゃいけない。
これらの紙だからこその努力の結果、「当たり前」に読める印刷物が出来上がります。
でも、紙だからこそ、みんなが手に取って今日起きたことを共有できる。紙だからこそ、イベントが終わって持ち帰ることができ、今日の思い出として取っておける。
そんな「紙だからこその大変さ」と、「紙だからこその価値」に、改めて気づくことができました。そして、印刷物を手に取った人に、印刷物を作るのにかかわった職人たちの、よい品を届けるためのひたむきな気持ちが伝わったら。そんなことも感じたイベントでした。
Y.A.
カラー写真を全て蛍光色に置き換えたり、4色機で一気に12色印刷してみたり・・・。印刷職人ですら予測出来ない事を実験しています。
毎週火曜日の夜8時から。紙のこと、デザインのこと、印刷のことについて、 ゆるゆると語る30分。
03-5608-5741
(お気軽にお問い合わせください|平日 10:00~18:00)