【このところ、お前は少し投げやりだ。紙さばきに気合いが足りない】
「まだ話せたのか、早く言いなよ」
また一枚。
【必要とされる限り、印刷は消えない】
「急になんだよ」
【印刷が消えるのは、役目を果たした時だ】

同期はそれきり何も言わなくなった。
真新しい春の光が、塗りたての白ペンキに反射する。改築された社屋は、いまだに見慣れない。若い社員の歓談を邪魔しないよう、私はそそくさと会社の地下の資料室へ向かった。古い書架を左右の壁に寄せて作ったスペースに、控えめなグレーの、けれど、しっかり大きい後ろ姿がある。オフセット印刷機になった、同期だ。
変身病のパンデミックは止まらない。発病を恐れて、印刷業界から去る働き手も多い。しかし、変身病は、本当に役割を失った人が発病するのだろうか。発病のきっかけが絶望ではなく、最後まで仕事を全うしたいという、強い意志だとしたら。

同期は無口で不器用だ。だけど印刷一筋の、真面目なやつだ。この街で最後の一台になった同期と、私は今日も印刷を続ける。

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